英語教育の現在地点

2023年2月26日 Vol.961

つばめ学院は埼玉県和光市にある「生徒を元気にする塾」です。

塾長の関口です。

今日のブログの結論を先に書いてしまいます。

小学生のお子様をもつご家庭では、新年度をを迎えるにあたって「英語」の勉強をしっかり準備してあげてほしいんです。

とにかく学校の英語の授業は、お父さん・お母さんの時代とは違って非常に難しくなっています。

中学入学段階ですでに「英語が得意な子」と「英語が苦手な子」に分かれて中1の春を迎えているのが現状です。

今日はその点について整理してお伝えします。

教育指導要領が景色を一変させた

教育指導要領が改訂されて、小学校での英語は2020年度から本格実施となりました。

今の中学1年生が「小学5年生」の時に本格実施が開始したことになります。この子達の世代から中1は「英語学習3年目」という位置づけに変わりました。

お父さんやお母さんの時代は「中1でアルファベットを習う」が普通だったはずです。もちろん先取りしている子もいたけれどそれは、あくまで「先取り」でした。

中1の「普通」はアルファベットが分からない状態からのスタートだったはずです。

私自身は中1まで英語にはまったく馴染みがなかったので、Lの小文字(l)を見て「アイ(I)じゃん!」と衝撃を受けたことをよく覚えています。

このことを受けて大きく変わったのが、中1の教科書と定期試験です。

当然ながら、中学入学では「小学校で習った英語」は前提知識になります。具体的には月の名前(January,February,March,…)や曜日(Monday,Tuesday,Wednesday…)や数字(one, two,three….)は読めるだけでなく書ける前提になりました。

和光市内の中学では、昨年度は1校だけが1学期の中間試験を実施しました。中1の問題の一部をご紹介して「何が大きく変わっているのか」を説明します。

試験問題の中盤(終盤ではない!)で、次のような問題が出題されました。

——

日本文に合うように、(  )内の語を並び替えよう。(最初にくる文字は大文字にしなさい) 各2点

1.私はよく日本語を話します。

( often / I / Japanese / speak / . )

2.私は英語を話しません。

( do / English / speak / not / I / . )

3.あなたは新聞を読みますか。

( read / you / the newspaper / do / ? )

4.箸、上手に使いますね!

( can / hashi / use / well / you / ! )

——

私の時代の1学期中間試験は、アルファベットと単語でした。曜日、月、数字が正しく書ければ満点を狙えました。

このテストは違いますね。

まず一般動詞の肯定文・疑問文・否定文を正しく書けないと点数になりません。

さらに込み入っているのが、1.で出題された肯定文です。”often”の位置は英語を書き慣れていないとなかなか正しい位置に置けません。

「一般動詞の前か、be動詞のうしろ」と教えられたりしますが、この「頻度を表す副詞」は多くの生徒がその置き場所に戸惑う単語です。ここは一捻りされています。

4.の問題では日本文で主語が省略されています。英語の初学者には非常に厳しい問題です。中1は初学者ではないので、それも良いのかもしれませんが。

ちなみに、このテストで曜日、月、数字の出題はありませんでした。

裏返すと、生徒達はこの試験に向けて「曜日、月、数字」のスペリングを詰め込むということをしていないということです。

では、「いつやるのか」それは「小学校の時に終わらせておいてください」が正解です。

ここで少し厳しい事を書きます。

「聞いたり、話したりなら割とできるんです。」という生徒と保護者が増えています。

当たり前の事です。勉強しなければ「読み書き」はできません。どんなに教育が遅れた貧しい国であっても「聞く、話す」ができない人間はほとんどいません。しかし「読む、書く」は勉強しないとできない事なんです。「聞く、話す」は慣れの問題です。

英語の「読み、書き」ができない子は単純に勉強が不足しています。逆に言えば、勉強さえすればできます。センスや個性の問題ではありません。

中学の英語はどこへ向かう?

中1の英語が難しくなったことは書きました。

では中3の英語はどうなるのか?ちょっと心配になりますよね。

この点において私は非常に大きな変化の兆しを感じています。

中3の英文法に「仮定法、現在完了進行形」といった高校英語からの繰り下がりが増えたことなど大した問題ではありません。

今年度の中3受験生に対して「入試特訓」で解いてもらった英文の一部をご紹介します。

ここに「変化」の兆候が明らかにみられるんです。

——

Language is the system of words and signs that people use to express ideas and feeing to each other. And it is usually used and understood by a (*)particular group of people. (中略) Each language or (*)dialect reflects the life and culture of the people who use it, and so each one is important.

(*)は注釈により日本語の意味が与えられる

——

私が中3のときに読んでいた英文とは決定的に違うことがあります。

それが「抽象度」です。かつての中学英語は圧倒的に「具体的」でした。

私が中学生だった頃は、高校入試の文章といえども

「KenとMaryが美術館に行って、いろいろな絵を見て感動した」とか

「僕のおじいちゃんは、ものを作るのが上手だから、先週の日曜日に僕のためにイスを作ってくれた」とか。

そういう極めて具体的な英文ばかりが扱われていました。

しかし、上記の英文は違います。言語というものが本質的にどういうものであるか、を書いています。

当然ながら、入試特訓の解説内容も「英文」の説明は減ります。

「良いか〜?Languageはね、system of words and sings って言ってるんだよ。すでに難しいかもしれんけど(笑)。システムってわかる?コンピュータシステムとか、サッカーの戦略でも3バックシステムとか言うよね。つまり、複数の要素が重なって、何か1つの機能とか目的を達成しようとするもの、それをここではsystemって言っているのね。で、何が集まってるかというとwords文字とsigns記号だよね。言語ってのは、文字とか記号を組み合わせて、何かの目的、ここでは表現かな。を達成しようとするって意味ね。」

「reflects the life and cultureって書いてある。reflectが難しいと思う子もいるかもしれないけれど、これは反映するという意味、知らなかったら覚えてくれればOK。で、何を反映しているのか?life生活とculrure文化だよね。生活はイメージつくよね。文化はどうだ?文化って言うと具体的には何?そう、音楽とか絵とか、他にも食べ物もそうだし、食べ方も文化に入るよね。住む場所、着るもの、さらには住み方とか着方。つまりは同じグループ内で共有されている、”普通はそうするよねー”とか”これは大事だよねー”って思われているものの集まりを文化と言ってよい。有名なところで言うと「もったいない」って言葉は日本語にあって、他の言語にないと言われている言葉の1つ。で、それは「もったいないなぁ」って感じる日本人の気持ちを反映してるでしょ。で、いま言った「日本人」とかいうくくりが、さっき出てきたparticular groupってこと。」

この傾向は実は高校生が挑む「大学入試」で見られる傾向でした。

その「傾向」というのは、一定レベル以上の大学に進学しようとすると、英語の試験で求められる能力が「英語を日本語に翻訳する能力」だけはなくなるということです。

「英語を日本語にしたけど、その日本語の意味が分からない」そういう事が起きるのです。

今回の文章だって同じです。

「言語とは人々が考えや感覚をお互いに(向かって)表現するために使う、文字と記号からなるシステムである。」

という日本語を理解できない中3生は決して少なくないはずです。

単語、英文法、英語構文では超えられない壁がここにあります。

よく言われる言葉ですが「日本語力の限界が英語力の限界」なんです。そして、その壁を突きつけれてしまうのが中3の英語になりつつあると現実があります。

実はこの流れは私が予想していた以上のスピードで進んでいます。中学生の英語でここまで抽象的な内容を出すことはないだろうと高をくくっていました。

しかし考えてみると、この程度の文章は中3生であれば「国語」で読んでいるんです。理解しているかどうかは別にして。

つまり、「国語」で読んでいる程度の抽象度であれば、「英語」で出しても良いという考えがあり得るのです。英文法の内容さえ、中学で学んでいる範囲を超えなければ問題ありません。実際に先程ご紹介した英文の「文法」は全く難しいレベルではありません。

理科と数学が融合するように、国語と英語が横断的に融合したとしても何の不思議もないことです。

大学入試はどうなってしまうの?

「英語が難しい」がどんどん低年齢化しています。

早い段階から細かい英文法を学び、抽象度の高い英文を読み、そのような取り組みを続けた先の大学入試ではいったいどんな「英語」の試験が出るんだ。そんな疑問が当然あると思います。

その象徴とも言えるような出題が今年度の大学入試で起こりました。

慶大、常識覆す「英語試験で出題文が日本語」の衝撃〜受験関係者の間でさまざまな臆測が飛び交う事態に〜

(東洋経済オンラインより)

記事の内容は、慶応大学の経済学部の入試問題で「日本語の文を読んで、英語の問題に答える」という問題が出たという話です。「英語」の試験なのに読む課題文が「日本語」という点が驚きだったのかもしれません。

とはいえ、ここまでブログを読んで頂いた方であれば納得してもらえると思います。

「ありえる話」ですよね。

大学入試では、その子が「十分に英語を使えるのか」を問うはずなんです。その手段として英語を読ませるのか、日本語を読ませるのかは本質的な問題ではありません。

かつて、新渡戸稲造や内村鑑三は日本の武士道や徳の精神を伝えるべく「英語」で本を執筆しました。

日本人ではなく外国人に向けて書いたのです。日本という国が、日本人という人々が大切に受け継いできた精神というものが何であるかを伝えるために。その結果として日本が世界から敬意をもって評価されたことは間違いありません。

「英語を勉強する」ということはそういう事だと思います。外国人の友達を作るために英語をするのであれば「話す、聞く」で十分です。勉強なんてせず、英語圏の国で生活すれば良いだけです。慣れればできるようになります。

「英語を勉強する」という事の中には、母国の文化や歴史を理解する力、そして同様に諸外国の文化や歴史を理解し尊重する”学び”が含まれなくてはなりません。

これからの日本の将来をになう若者達に、そのような期待を託して「英語教育」をすることは素晴らしい事です。

しかしながら、そのスタートラインに立てるのは「全員」ではありません。今から是非その備えをしてあげてください。

最後まで読んで頂いてありがとうございます。

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